交趾郡治・ルイロウ遺跡Ⅱ

「交趾郡治・ルイロウ遺跡」は、紅河デルタ平野に残るベトナムの国家史跡(1964 年認定)です。歴史上、古代中国郡県制の直接支配を受けた東南アジアでは稀有な地域にあたり、東アジア文化圏の形成過程を探るうえ、朝鮮半島や日本列島文化とも対比しうる重要な遺跡です。しかし、その真相究明は、時代による偏りが大きく、今なお厚いベールに包まれています。 2013年12月、本プロジェクトの研究代表者が所属する東亜大学は、ベトナム国家歴史博物館と学術協定を締結し (図1)、文科省学術振興会科研費補助金による日越共同調査、交趾郡治・ルイロウ城址の発掘調査を(平成26・27・28年度)3次にわたって継続的に行った(図2)。各年度のルイロウ発掘において、様々な新発見があり、予想以上の調査成果が挙げられました。 これら発掘調査成果は、これまで、時期不詳だった交趾郡城の盛衰を把握し、ルイロウ築城のIV期編年を初めて判明しました(図3)。発掘では磚瓦、陶磁器や冶金関連遺物など、合計約1万点を検出し、特に五銖銭、中国製の絹片、漆木器、金銅製仏像の光背片、及び南インド原産のガラス小玉など、海のシルクロードとのつながりを示すものも発見しました。 これら学術調査と重大発見をまとめて学術書(黄暁芬編著『交趾郡治・ルイロウ遺跡II-2014-15年度 発掘からみた紅河デルタの古代都市像-』総200頁、フジデンシ出版、2017年)を上梓しました。また、各年度の調査成果について、日本考古学協会、ベトナムと中国の学会や国際学術シンポジウム(図4)、そして世界考古学会(2016京都会議)にて研究発表をし、また同学術誌に掲載され、高い評価が得られました。 今年度(H29)、本プロジェクトの日越共同調査企画については、ベトナム文化部文物局の発掘調査の許可を得て上記の学術調査成果をもとに、ルイロウ内城で見つかった鋳銅や製鉄炉遺構を追跡、確定調査する予定です。 　 　 ※本書は、科研費補助金基盤研究(A)「東アジア文化圏の形成に果たした漢代郡県都市に関する学際的研究」による日越合同調査(2014-15年度発掘調査)・学際的研究調査の成果研究報告書です。 　 　 【目　次】 口絵Ⅰ～Ⅷ 第Ⅰ章　研究課題と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第1節　課題目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第2節　研究計画と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第3節　調査の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第Ⅱ章　ルイロウ遺跡の景観調査と立地分析・・・・・・・・・・・・・・・・8 第1節　交趾郡治・ルイロウ遺跡の立地と景観・・・・・・・・・・・・8 第2節　ルイロウ遺跡の高精度GPS調査・・・・・・・・・・・・・・・10 第3節　衛星リモートセンシングデータを用いたベトナム北部 古城遺跡の調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第Ⅲ章　ルイロウ城址の基本層位・遺構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第1節　発掘調査区の設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第2節　各発掘調査区の基本層位・遺構 ・・・・・・・・・・・・・・17 第Ⅳ章　ルイロウ墳墓群の調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第1節　ルイロウ墳墓群の分布調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・34 第2節　清姜墓区墳墓の測量調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・37 第Ⅴ章　出土遺物の考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 第1節　金属器類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 第2節　冶金関連遺物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 第3節　磚類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 第4節　瓦類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 第5節　陶磁器類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 第6節　漆木器・竹木片 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 第Ⅵ章　出土遺物の自然科学的分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90 第1節　金属器・冶金関連遺物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・90 第2節　陶製品の胎土分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105 第3節　ガラス小玉の材質調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・107 第4節　木製品の樹種分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 第5節　動植物遺存体の科学分析・・・・・・・・・・・・・・・・・117 第6節　動物骨・炭化物の年代測定・・・・・・・・・・・・・・・・127 第Ⅶ章　ルイロウ出土新資料の考察と認識・・・・・・・・・・・・・・・・133 第1節　交州廟碑考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133 第2節　ルイロウ城址出土の人面文瓦当に関する初歩的考察・・・・・138 第3節　金銅製光背の発見と認識・・・・・・・・・・・・・・・・・147 第Ⅷ章　交趾郡治・ルイロウの都市像と歴史的性格・・・・・・・・・・・・152 第1節　ルイロウ遺跡の都市空間を読む・・・・・・・・・・・・・・152 第2節　よみがえるルイロウの都市像・・・・・・・・・・・・・・・155 第3節　結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・160 後　記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161 図版一～二〇

交趾郡治・ルイロウ遺跡Ⅰ

交趾郡政庁の発見の元となった研究の初めての報告書。 （2013年から開始された研究報告書）

漢魏帝国の空間構造 －都城・直道・郡県都市－

過去、日本で出版された秦の直道に関する最も詳しい研究報告書。 南北に正対する古代中国の都城を研究し、解説を加える。 　 　 目 次 はじめに 1 第Ⅰ章 「法天象地」の帝都プラン 第１節 漢帝都長安の都市計画と造営理念････････････････････････黄暁芬･･3 第２節 漢魏洛陽城の宮都･陵墓の立地と空間配置･･････････黄暁芬,臼井正･･20 第３節 古代における方位測定法の探求･･･臼井正,宮原健吾,黄暁芬,宇野隆夫･･27 第Ⅱ章 中国古代郡県都市の基礎的研究 第１節 華北における郡(国)県都市の探究<Ⅰ>,<Ⅱ>･･････････････黄暁芬･･35 第２節 漢代郡県城址の調査成果とその特色････宮原健吾,宇野隆夫,臼井正･･56 第３節 九原-五原郡治の位置に関する考古学的観察･･魏堅,郝園林(菅野恵美訳)･･65 第４節 遼寧省凌源県安杖子古城の調査と認識･･･黄暁芬,潘玲,陳利,臼井正･･76 第５節 広西の漢代城址とその初歩的認識････････････熊昭明(木村裕章訳)･･79 第Ⅲ章 東洋最古のハイウエー 第１節 秦直道のルート調査と検証････････黄暁芬, 張在明,宇野隆夫,臼井正･･89 第２節 秦直道考古の新成果･･･････････････････････････････････張在明･･99 第３節 出土人骨の科学分析と考察･･･････････････ 1.米田穣；2.篠田謙一･･109 第４節 秦直道の研究････････････････････････････････････････黄暁芬･･117 第５節 朝鮮半島南部の古代道路････････････････････････････吉井秀夫･･144 第Ⅳ章 秦漢帝国北方辺境の歴史空間 第１節 帝国北辺遺跡の調査と研究･･･････････････････････････黄暁芬･･147 第２節 陰山河套地区秦漢時期城址の分布と類型･･･････････････王暁琨･･161 第３節 匈奴墓発掘の新成果･････････････････････張恩晶(諫早直人訳)･･171 第４節 漢代における匈奴と鮮卑の考古資料の比較･･･潘玲(木下保明訳)･･182 おわりに